探究と道徳は別で考える――デイリーポータルZ・林雄司さんに聞く「DPZ流・探究のコツ」

探究と道徳は別で考える――デイリーポータルZ・林雄司さんに聞く「DPZ流・探究のコツ」

ライター自身が心から興奮したことだけを載せ続けるおもしろサイト「デイリーポータルZ(以下、DPZ)」。「1年365日おとなが自由研究を続ける、えんえん続ける、続けまくって15年超というまさにエンドレスサマーの天国サイト」とまで号する老舗メディアです。

DPZでは「コーラってそもそも何味なの? メーカーに聞いた」、「斜に構える、構えないを1分ごとに切り替えるとどうなる?」など、探究心あふれるコンテンツを提供しています。

DPZのライターたちは、なぜ面白い探究コンテンツを生み出すことができるのか。今回は、高校における「探究学習(※)」のヒントをもらうべく、Webマスター・林雄司さんに「DPZ流・探究のコツ」をお聞きします。

※[課題の設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現]の探究プロセスを繰り返すことで、問題を解決する力や新しい価値を生み出す力を養っていく学習法。2019年度から高校で導入された「総合的な探究の時間」を受け、注目を浴びている。

探究を深めるために、道徳はいったん横に置く

――探究プロセスは「課題の設定」から始まります。ただ、いきなり「問いを出せ」と言われても、難しいですよね。DPZではどのようにネタを見つけてくるのでしょうか?

ライターには「モノをよく見ましょう」と言います。例えば、このICレコーダーに書いてあるマーク、意味分からないでしょう?

ICレコーダーの裏の写真。様々なマークが刻まれている

――たしかに。あまり意識したことがないので、正確には分からないです。

あと、この時計に書いてある「総務備品 カンヌ」とか。

会議室に置いてある時計の写真。「総務備品 カンヌ」のラベルが貼られている

――なぜ「カンヌ」なんでしょう?

最近、オフィスを引っ越したんですけど、たぶん元々「カンヌ」っていう部屋の備品だったんじゃないかな。

――会議室の名前が「カンヌ」だった、と。

モノをよく見ると、知らないことだらけなんです。DPZでも、まだ経歴の浅いライターが「もうネタがありません」って言うことがあるんですけど、世の中のすべてが分かったわけじゃない。「まだまだ知らないこと、いっぱいあるのにな」って思います。

――モノをよく見るためのコツはありますか?

「間違い探しだったら、どこが違うかな」と考えてみる方法があります。今見ている風景の右側に、間違い探しの絵があると想像してみる。「自分が間違い探しの作者だったら、どこを変えるかな」って考えると、「これは何だろう?」というものがよく見つかります。

ドアの前で手を広げる林さんの写真

このドアだと、間違い探しの絵では「引き戸」になっているかもしれない(笑)。あと、意外なものにぶつかることが大事なので、ノイズの多いところに行ったほうがいいですよ。

――ノイズというのは?

「自分の趣味・思考から外れた、意図せず出会う情報」ですね。普段なら絶対に行かない場所を訪れるといいですよ。街をウロウロして、書いてある文字を読む。そこから探究のネタが見つかるかもしれません。

――ネタの良し悪しは、どうジャッジしているのでしょうか?

自分が本当に興味を持って調べたいものなら、基本的に何でもOKですよ。ただ、「それ、単なるウケ狙いで持ってきたネタでしょう?」「本当は興味ないのでは?」と思ったときは、ちゃんと言います。

――高校での場面に置き換えると、「このテーマだったら、先生に評価されるだろう」と考える生徒も多いかもしれません。

それはあるでしょうね。でも、どうせなら興味のあることのほうがいいですよ。長続きするから。

あとは「自分事」かどうかも気にしています。DPZって当事者性のあるテーマしか扱っていないから、急に「誰かが不幸になっているから、助けなきゃ」と言うと、ウソっぽくなってしまう。「自分は当事者じゃないけど、こういう理由で関わりたい」という立ち位置をハッキリさせるんだったらいいですけど。

社会問題よりも、自分が困っていることから見つけるほうがいいんじゃないかな。DPZのライターにも「当事者じゃないのに、なぜあなたはそのネタを選んだの?」とよく聞きます。

――まずは自分事から始めよう、と。

ささいなことから始まって、最終的には世界の真理にたどり着けるといいですよね。

――逆に、ウケ狙いとか面白系YouTuberを真似してテーマを選ぶ生徒がいた場合、どうすればいいでしょうか?

本心からやりたいと思えて楽しくできるテーマなら、問題ないと思います。DPZでもYouTuberっぽい企画がいっぱいあるので。あと探究の課題を決める際、善悪はいったん横に置いたほうがいいかもしれません。

例えば、先生が「詐欺は悪いことだから、テーマにしてはいけません」って言っちゃうと、探究の対象から外れてしまう。でも、犯罪研究は世の中に必要な学問ですよね。詐欺をする人は、「真面目に働くより詐欺のほうがいい」と判断している。なぜそう思うのか探究しようとしても、先生が「詐欺なんて、ダメに決まっているじゃないですか」って言うと、それで終わりになっちゃう。

――探究の前にストップがかかってしまう、と。

基本的には、「探究」と「道徳」は別で考えたほうがいい。そのほうが、いろんな可能性が出てきて面白いはずです。

――その流れでいうと、バイト先の冷蔵庫に入っちゃった学生がいましたよね。もしかすると、「冷蔵庫の中で何分まで耐えられるか」というテーマを出す高校生が出てくるかもしれません。

いそうだなあ(笑)。

でも、冷蔵庫と同じような気候の場所もありますからね。「冷蔵庫の中、さみー」で終わったら意味がないけど、気候や人体の探究と絡めていくと面白くなるかもしれない。

理屈があって、頭を使って、体で確かめて、また頭を使う。それはDPZでもやっていることなので。ただ、「ケガしないように気をつけて」という注意はしています。

――特に若者は、過激なものに目が行きがちな面もありますよね。

過激であることが目的になっちゃうとダメですよ。「過激さ=面白さ」ではないので。何かを調べたくて偶然バカなことになっちゃった、という場合は全然構わないんだけど、最初からそれが目的だと主従が逆転しているから。

探究の面白さについて語る林さんの写真

会議で盛り上がったネタは気をつけよう

――次に、企画の膨らませ方について。DPZでは、どうやってネタをブラッシュアップしているのでしょうか?

以前は「人間を鉄道のように撮る」とか、意外な組み合わせをすればいいと言っていたけど、最近はわりとオーソドックスな方法を勧めています。真剣に語る、丁寧に調べる、詳しい人に聞く、とか。注意するとしたら、「会議で一番面白いネタは気をつけよう」くらいかな。

――どういうことでしょうか?

例えば、元アメリカ大統領のリンカーンって、いま教科書では「リンカン」と書いてあるんですよ。そこで、「リンカーンの格好をして中央林間を歩く」というネタを出してみる(笑)。これは会議の場ではウケるかもしれないけど、実際にやったらそんなに面白くないんですよ。

――会議がピークだ、と。でも、それって判断できるんですか?

「これ、会議がピークだったな」と後から気づく記事もありますよ(笑)。逆に、会議の場ではそんなに盛り上がらなくても、記事にしてみたら良かったなというケースもあるので。

――まわりの反応が悪くても、そこでめげる必要はない、とも言えますね。

デイリーポータルゼットの編集部員が集まって会議している様子
デイリーポータルZの会議の様子

自分なりの考察を出すには、まず親しい人に話してみる

――「これ、なんでだろう?」と思った課題をネットで調べると、既に答えが載っている場合もありますよね。そのときは、課題を変えたほうがいいのでしょうか?

誰かが仕掛けたものとか、人工物はあまり選ばないほうがいいですよね。ネットで調べればすぐ答えが出てしまう可能性が高いので。自然物でも「世田谷区に10m以上の木は何本あるか?」という課題だったら、もしかしたら区役所のサイトなどに答えがあって、数字を出して終わりになっちゃう。

でも、「どんなところに生えているのか?」「どんな雰囲気だったか?」と深堀りはできる。背景やバックボーンまで調べていくと、意外な事実が浮かび上がってくることもあります。

――探究のポイントをズラしていく、と。構成についてはいかがでしょうか?

つかみとして、「こうなのでは?」という仮説があるといいですよね。ただ、あらかじめストーリーを作るのはおすすめしません。先にストーリーがあると、「茶番」感が出てしまうから。

それでも面白い記事を書ける人はいるけど、創作になってしまう。DPZでは、「先を読まないで書く方法」を推奨しています。仮説は立てるけど、検証の結果はどうなるか分からない状態で残しておく。これは探究の授業にも通じるところがあるんじゃないですかね。

――では、調べて結果が出た後、自分なりの意見や考察を出す方法は?

文章を書く前に、親しい人に話してみるといいですよ。そうすると、たいてい相手はつまらなさそうに聞くから、「いや、これはこうなんだよ」と慌ててしゃべったりする。

「で、なんなの?」とツッコまれたときに、頭をフル回転させて何か言う。その言葉を使うといいかもしれないですね。つまり、しゃべらざるを得ない状況に自分を置いてみる。フロイト的に言うと、言い間違いも本心かもしれないから。

良いプレゼンのポイントは、他人のプレゼンを盛り上げること

――発表の仕方についはいかがでしょうか? DPZの記事でいうと、文章、イラスト、グラフ、映像など、いろんな要素がありますよね。ライターさんに指示することはあるのでしょうか?

けっこう言いますね。数字が出てきたら「グラフにしたほうがいいよ」とか、場所の説明が出てきたら「地図を入れてください」とか。

テレビのロケで「今日は●●にやってきました」って言うとき、必ず地図が出てくるじゃないですか。気が利いているなと思いますよね。Webの記事だとそのままスルーしてしまうことも多いので。

――ビジュアル的に分かりやすくする、と。

あと、「テーマ広げすぎ」っていうのはよく言います。例えば「珍しい寿司を食べに行って、自分でも作ってみる」という記事だと、後半の「自分でも作ってみる」は要らないですよね。

たいてい詰め込みがちだから、1記事1テーマにしたほうがいい。内容がぼやけちゃいますから。

――林さんが考える、「良いプレゼンテーション」のポイントとは?

他人のプレゼンテーションをよく聞いて、よく笑うことですね。場を温めておけば、自分がやりやすくなるから(笑)。とにかく他人のプレゼンを盛り上げていくこと。「ムスッとした顔で聞いてちゃダメだよ」とよく言います。

――最後に、もし林さんが母校から「探究の授業をしてください」と頼まれたら、どんな内容にしますか?

それ、嫌だなあ(笑)。ちょっと恥ずかしいというか。学校で教える立場になると、自分がやっていることに過大な正しさを抱きすぎている気がするんですよ。そこまで正しいと思っていないので。DPZの記事が好きな人もいれば、もっと下品なコンテンツが好きな人もいる。それって、どっちが正しいとか間違いとかの話じゃないですから。

結論としては、「もっとちゃんとした卒業生にお願いしてください」って言いますね(笑)。

インタビューに答えてくれたデイリーポータルゼットのウェブマスター・林雄司さんの写真

(取材・執筆:村中貴士 撮影・編集:野阪拓海/ノオト)

【プロフィール】
林 雄司(はやし・ゆうじ)さん
デイリーポータルZ Webマスター(編集長)。イッツ・コミュニケーションズ株式会社勤務。1971年東京生まれ。1996年から個人でサイト制作を始め、2002年にデイリーポータルZを開設。編著書に『死ぬかと思った』シリーズ(アスペクト)、著書に『会社でビリのサラリーマンが1年でエリートになれるかもしれない話』(扶桑社)などがある。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思っている。

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